逮捕されたゴーン氏は「会長」か「容疑者」か

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カルロス・ゴーン日産自動車会長の逮捕を伝える各紙

日産自動車カルロス・ゴーン会長が11月19日、金融商品取引法違反の疑いで東京地検に逮捕されました。夕方に朝日新聞デジタルが「逮捕へ」のスクープ号外を出して以降、各社が後追い競争に駆り出される形となりました。ゴーン氏は「容疑者」となったわけですが、各紙の呼称の用法に違いが見られましたので、刑事報道の事例として記録します。

見出しはどれも「会長」だけど……

今回入手したのは20日付の朝日、毎日、読売、日経、産経(以上大阪本社発行分)、京都、神戸、大阪日日、奈良、中日、東京、日刊工業の各紙です。版違いを入手しているものもありますが、今回は最終版で比較をします。

さて、今回のテーマであるゴーン氏の呼称。1面の見出しはいずれも「会長」で一致しました(奈良新聞は県外ネタを最終面に集約する編集のため、本記を終面に掲載)。

1面の主見出し
朝日 日産ゴーン会長 逮捕
毎日 日産ゴーン会長 逮捕
読売 日産ゴーン会長逮捕
産経 ゴーン日産会長 逮捕
日経 ゴーン日産会長 逮捕
京都 日産ゴーン会長 逮捕
神戸 日産ゴーン会長 逮捕
大阪日日 日産ゴーン会長ら逮捕
奈良(終面) 日産ゴーン会長ら逮捕
中日 日産ゴーン会長 逮捕
東京 ゴーン日産会長逮捕
日刊工業 日産ゴーン会長 逮捕

本文で対応分かれる

各社の対応に違いが出てくるのが本文の書き方です。「容疑者」と「会長」の二つが登場します。

なお1面本記の原稿は、地方紙が東京が自社原稿、他が共同通信配信記事とみられ、日刊工業は自社原稿と推測されます。地方紙の共同原稿も記事差し替えのタイミングの関係からか、表現が微妙に異なりますので個別に比較します。

書きぶりをパターン分けしてみると次のようになります。

  • (1)「会長のゴーン容疑者を逮捕。ゴーン容疑者は」パターン。初出も2度目以降も「容疑者」=読売、京都、神戸、中日
  • (2)「ゴーン会長が○○したとして、ゴーン容疑者を逮捕。ゴーン容疑者は」パターン。逮捕事実の記述部分より前は「会長」、以後は「容疑者」=産経、大阪日日、奈良
  • (3)「ゴーン会長を逮捕。ゴーン容疑者は」パターン。逮捕事実の記述部分まで「会長」、後は「容疑者」=東京、日刊工業
  • (4)「会長のゴーン容疑者を逮捕。ゴーン会長は」パターン。初出は「容疑者」、2度目以降は「会長」=朝日、毎日、日経

以下は実際の1面本記の書き出しを抜粋したものです。

パターン(1)は逮捕報道の原則に沿った書き方と言えます。一方(4)は事件の性質によって肩書を優先する例外パターンを適用する場合の中ではオーソドックスな書き方です。逮捕事実に関しては、その人が捜査の対象にあるという法的立場を示すために「容疑者」とし、これを初出として2度目以降は肩書で統一するという方法です。

パターン(2)は逮捕事実以降を「容疑者」とし、それより前は肩書とする例。通常の原稿であれば、「誰々を逮捕」と書けば「○○したとして」の部分の動作主体が容疑者なのは明らかなので、逮捕事実よりも前に容疑者の名前が出てくることはありません。

今回は同時にグレッグ・ケリー代表取締役も逮捕されており、日刊工業以外は後段の逮捕容疑に関する記述で、過少記載が(2人ではなく)ゴーン氏の報酬についてだと書いています。パターン(2)の3紙は逮捕事実の記述で「ゴーン容疑者とケリー容疑者を逮捕」という書き方をしています。前段の部分で他紙のように「自身の役員報酬を過少に記載したとして」とすると、「自身」が2人のうちどちらを指すか不明瞭になるということを意識した可能性はあります。3紙以外にリード部分でも結果的にこうした書き分けができているのは朝日、日経、京都、神戸、中日。日刊工業はケリー氏の逮捕に触れていません。

パターン(3)が一番の異例かもしれません。法的立場を示すのが通常である逮捕事実の記述部分で「容疑者」ではなく「会長」を使ったのは、ゴーン氏の知名度などを勘案したのでしょうか。それでも普通は「会長のゴーン容疑者」だと思うのですが……。

以下は各紙の1面本記から書き出し部分を抜粋したものです。

1面本記の書き出し(太字強調は筆者、「…」は省略箇所)
朝日 東京地検特捜部は…日産自動車(本社・横浜市)の代表取締役会長カルロス・ゴーン容疑者…を…逮捕し、発表した。…ゴーン会長に対する捜査を巡っては…
毎日 東京地検特捜部は…日産自動車会長のカルロス・ゴーン容疑者を…逮捕し…ゴーン会長の自宅マンションなどを捜索…
読売 東京地検特捜部は…日産自動車(本社・横浜市)会長のカルロス・ゴーン容疑者ら…を逮捕…。…ゴーン容疑者らの虚偽記載…
産経 日産自動車カルロス・ゴーン代表取締役会長…が自身の役員報酬を…過少に記載した有価証券報告書を提出したとして、東京地検特捜部は…ゴーン容疑者…を逮捕した。…日産は…ゴーン容疑者の会長と代表取締役の職を…
日経 東京地検特捜部は…仏ルノー日産自動車三菱自動車の会長を兼務するカルロス・ゴーン容疑者…を…逮捕した。…日産は…同会長らの解任を…
京都、神戸 日産自動車有価証券報告書に自身の役員報酬を…過少に記載し申告したとして、東京地検特捜部は…代表取締役会長のカルロス・ゴーン容疑者…を逮捕…ゴーン容疑者の主な不正として…
大阪日日 日産自動車有価証券報告書カルロス・ゴーン代表取締役会長…の役員報酬を…過少に記載した疑いがあるとして、東京地検特捜部は…ゴーン容疑者…を逮捕…ゴーン容疑者が会社の資金を…
奈良(終面) 日産自動車カルロス・ゴーン会長…が…同社の有価証券報告書に自らの役員報酬を過少に記載した疑いがあるとして、東京地検特捜部は…ゴーン容疑者…を逮捕…ゴーン容疑者が会社の資金を…
中日 日産自動車有価証券報告書に自身の役員報酬を…過少に記載し申告したとして、東京地検特捜部は…代表取締役会長のカルロス・ゴーン容疑者…を逮捕…ゴーン容疑者ルノー、…
東京 日産自動車の…カルロス・ゴーン代表取締役会長…が自らの報酬を…過少に有価証券報告書に記載したとして、東京地検特捜部は…ゴーン会長ら役員二人を逮捕…ゴーン容疑者の報酬が…
日刊工業 東京地検特捜部は…日産自動車カルロス・ゴーン代表取締役会長を…逮捕…東京地検特捜部が同日、ゴーン容疑者を事情聴取した。

キャプション、経歴記事でも表記揺れ

本記と合わせて1面に顔写真やゴーン氏の経歴記事を載せた社もありました。

本文で原則「容疑者」表記だった(1)~(3)は、顔写真のキャプションや経歴記事でも「容疑者」の社が多く、例外は▽東京新聞が経歴記事で「容疑者」、事件構図の図解中で顔写真に添えられた説明が「会長」▽奈良新聞が顔写真のキャプションで「氏」、写真キャプションが「カルロス・ゴーン容疑者の逮捕を受け、日産自動車グローバル本社に集まった報道陣」──でした。

一方原則「会長」表記の3紙でも対応が分かれています。▽朝日は「会長」▽毎日は顔写真キャプションが「容疑者」、日産記者会見写真のキャプションが「ゴーン会長の逮捕を受けて記者会見をする日産の西川広人社長」▽日経は「容疑者」──です。

他面記事の見出しは

大きなニュースなので奈良新聞以外は複数面で記事を展開しています。こうした関連記事のことを、1面本記に対して「受け」とか「サイド」などと呼びますが、受け原稿の見出しではどちらを使ったのでしょうか。先ほどのパターン別に見てみると次のようになりました。

  • パターン(1) ▽「容疑者」=読売▽「会長」=京都、神戸、中日
  • パターン(2) ▽「容疑者」=産経▽「会長」=大阪日日▽他面記事なし=奈良
  • パターン(3) ▽「会長」=東京▽見出しには登場せず=日刊工業
  • パターン(4) ▽「会長」=朝日、毎日▽「氏」と「会長」の混在=日経

まとめ

東京地検特捜部に逮捕されたこと自体に変わりはなく、逮捕容疑に関する記述もほぼ変わらないにもかかわらず、ゴーン氏をどう呼ぶかという点においてこれだけ差が生じるのは興味深く思いました。

大規模なコストカットで業績を回復させ、ルノー三菱自動車との連合も組むなど、名実ともに日産の顔として君臨し続けてきたゴーン氏は、平成日本を象徴する人物の1人とも言えましょう。そんな彼が逮捕されたとき、なんと呼ぶべきなのかは案外難しい問題なのかもしれません。