また夢ンなるといけねえ

しがない男子大学生。新聞サークルの記者をしている。堺、六甲、西中島南方が生活の拠点。

夜が明ければ分かることなのに

台風の中の選挙

 23日夜の一報に声を失った。台風21号の大雨で冠水した三重県度会町の県道の脇で、水没していた乗用車の中から23日朝発見された29歳の男性が、NHKから委託された会社のアルバイトとして前夜の衆院選開票関連の報道業務に当たっていたことが分かったというニュースだ。男性は業務を終えて帰宅途中だったとみられる*1

 僕も22日は、アルバイトとして開票所で「バードウオッチング」と俗に言われる作業に従事していた。開票作業をする職員の手元を双眼鏡でのぞき込み、1票ずつ誰の得票かを数えていく作業だ。全ての票を数えられるわけではないが大まかな得票傾向をつかめるため、選管の正式発表の前に当選確実を打てるようになる。

 日中に大阪市内のオフィスで説明を受け、夕方に電車とバスを乗り継いで開票所へ。午後10時ごろには担当の作業が終わり、社員さんを残して学生アルバイトは引き揚げた。まだ公共交通機関も動いていたので僕は安全に帰ることができたが、日付が変わる頃には風も音を立てて吹くようになり、久しぶりに怖い夜を過ごした。

 「こんなの夜が明けりゃあ結果なんて分かるのに」という思いがないわけではない。一方で早く当確を知りたいとも思ってしまう床屋政談趣味の一人でもある。報道は難儀な商売である。

台風よりも選挙、なのか

 午後11時少し前に帰宅した。既にツイッターで、大阪市堺市の境を流れる大和川が増水しているという投稿が相次いでおり、堺市からエリアメールも届いていたのも知っていたが、玄関を開けるなり妹が、川の近くに住む友人からLINEで送られたという川の映像を見せてきた。

 ただ事じゃないと思った。土地勘のない人には分からないかもしれないが、大和川の両岸は人口密集地域である。はん濫すれば間違いなく被害は出るし、堤防決壊(破堤)に至れば大災害になる。以降僕は、いまこの文章を書いているノートパソコンで、川の水位やライブカメラを見ることができるサイトを閲覧し、状況を逐一確認していた。

 テレビはNHKをつけていた。開票速報番組の時間帯ではあるが、これだけの話になっているのだから当然台風関連もやるだろうと思っていた。なにせ「災害報道のNHK」なのだから。

 ところがBK(大阪放送局)発の時間になっても大半は選挙関連の情報が続いた。一応毎正時手前の時間に台風情報のコーナーはあったが、こちらからすればそれどころじゃない。選挙報道と台風情報の時間配分にかなり違和感を感じた。

 危機を感じる視聴者が「いま、ここに」欲しい情報が手に入れることができない。それがメディアに対してどんな感情を生み出すことにつながるかは、言うまでもない。

冷静になれなかったのか

 亡くなったアルバイトはNHKに直接雇われていたわけではないが、そんなのは理由にはならないだろう。選挙報道のために人を1人死なせてしまったわけだから。

 ここのところNHKは苦々しい話題が続く。10月には首都圏放送センターの記者が2013年に過労死していたことが判明した。同年夏の都議選と参院選の取材に当たっていた。

 確かに選挙報道は大切だが、しかし命はそれ以上に大切なはずだーー。この当たり前のことがかすんでしまう、そういう世界なんだろうか。職員の命も、視聴者の命も。

 結局のところNHKはどれだけ、この台風の深刻さを認識していたのだろうか。気象庁が会見を開いて特別警報の発表可能性も事前に示唆していた。しかし視聴者の心に寄り添うことはできず、身内にも1人犠牲を出してしまっている。最悪の結果といえるだろう。

 夜が明ければどうせ分かること、とどこかで冷静になれなかったのか。悔やまれる夜である。

*1:産経ニュース「NHKのバイト男性死亡、選挙報道の帰り 車水没」(2017年10月23日)www.sankei.com