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また夢ンなるといけねえ

しがない男子大学生。新聞サークルの記者をしている。堺、六甲、西中島南方が生活の拠点。

川は悪臭を放った

 午後10時にアルバイトを終えて、大阪の土佐堀川沿いを歩いた。普段は盛り土の上に敷かれた道路から、夜の川を見下げるだけだが、気が向いて階段を降りて流れの間際まで近寄ってみた。親水護岸は青白い明かりに照らされ、東側には脚がオレンジにライトアップされた橋がある。

 川に近付くと微かな悪臭があった。鼻をつまむほどではないけれど、不快感、いやそこまでもいかない違和感を覚えた。東へ歩くと次第に臭いが口の中で滞留するような感じがして、気分が悪くなった。僕は階段を上がって、いつもの帰り道に戻った。

 

 川に近付く気になったのは、前の日に神戸で海を見たからだった。サークルの仕事でハーバーランドを訪ねた。午後7時半からの会議だったが、4時ごろには到着。暇潰しでサークルの研修に使う資料を作ろうと、公衆無線LANの使える場所を探し歩いていたところ、ばったり高校の同期の男と遭遇した。彼は現役で大学に入ったから、僕より一つ学年が上で、就職活動の最中。姫路からの帰路、割引切符の都合で神戸駅で下車可能だから、海を見ようと来たらしい。

 ポートタワーを向こうに、穏やかな海を見た。岸壁のへりには車止めのようなものが設置されていて、そこに無数の落書きがある。これが面白かった。カップルがよく書く「相合傘」で、彼氏は実名なのに彼女はイニシャルしか書いていない傘がたくさんあった。三代目JSoulBrothersのメンバーのファンによるものと見られるものがたくさん並んでいた。南側には男性の股間を描いた「力作」もあった。

 穏やかな春の海は気持ち良かった。その同期とは仲が良かった。成人式以来の再会ではあったが、普段ツイッターはフォローし合っているので久しぶりな感じもなかった。

 互いの近況や共通の友人、知人の近況を喋り合った。でも僕にはサークルの愚痴しか手持ちの弾がなかった。彼は、学生らしく浮いた話もネタとして持っていた。変わった人間なので、単純なものではないけど。

 僕自身や周りに浮いた話がなくなってから、年単位の時間が経っていた。僕自身にないのはまあそうだとしても、周りにすらない、というのは、この年齢では異常だと思う。

 サークルにかまけている間に、そんなことになってるのか、と気付いてしまった。悲しくなった。

 人間は社会的動物だから、属するコミュニティーに左右される。なのにそのコミュニティーが、ずっと自分を守ってくれるとは保証してくれない。今のサークルだってあと数カ月しかいられない。サークル外で大学に居場所を得ていないから、サークルを抜ければ、広い社会という外袋に放り出されるのも同然。その常識に付いていけるのか。サークルのぬるま湯しか知らないのに。

 時間になり彼と別れて、会議に出たが、焦りが頭の中を占めて落ち着かなかった。

 夢物語を夢で終わらせないようにするには、僕自身の努力が必要だ。環境を変える、そのために自分をリフォームする。しなやかに身をこなす。依存先を増やし、多くの選択肢を持って、可能性を広げる。

 んなことできたら、大学に友達もいるだろ。

 

 土佐堀川に近付こうという気になったのは、前日の神戸の海の気持ち良さを思い出したからだった。でも過去は過去。丸腰で夢に近付こうとしたところで、帰ってくるのは悪臭でしかなかった。