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また夢ンなるといけねえ

しがない男子大学生。新聞サークルの記者をしている。堺、六甲、西中島南方が生活の拠点。

阪神・淡路大震災の報道資料を読む

ことしは阪神・淡路大震災から20年です。僕は1995年8月生まれですが,僕の学年はよく「震災を経験していない第一世代」と言われています。メディアに興味関心を持ち続けてきた僕にとっても,阪神・淡路大震災のときに何があったのかというのは大いに興味があります。

以前,普段通っているのとは違う図書館でいろいろ書棚を見ていたときに,震災関係のある資料に目が留まり,中を読んでみると僕にとっては驚きの事実が書かれていたことを覚えていました。当時は特にメモも取らずに書棚に戻してしまったので,確たることを言えなかったのですが,前期試験が終わったのでその資料を探しました。そして見つけましたので,地元の図書館で取り寄せてもらいました。

震災資料
NHK大阪放送局・神戸放送局編 『阪神・淡路大震災 その時、NHKは・・・』

この本は,震災後約100日間のNHKの放送や営業など各部門の対応を記録した冊子です。きょうの記事はこの中から興味深い内容をピックアップして紹介しようと思います。(以下,「記録冊子」はこの『阪神・淡路大震災 その時、NHKは・・・』を指すこととします。またページ数も記録冊子のページ数です)

 震度6確認は地震発生から約30分後 

よく知られている話として,「神戸は震度6」という情報が最初は入らず,地震の全容がわからなかったというものがあります。ほかの民放の資料にも同様の話が載っています。


こちらは当時のNHKニュースの映像です。冒頭から東京のスタジオの村上信夫アナウンサーが情報を伝えていますが,動画の25秒ほどになって震度画面に「神戸6」の表示が現れます。記録冊子によると,この「震度6確認」の一報は午前6時15分35秒でした(3ページ)。

さて,いま「確認」という文言をつけました。記録冊子でもそのように書かれています。実は,この「神戸震度6」の情報についてNHKの中でひと悶着ありました。僕が驚いたのはこの話です。 

 地震発生の5時46分 

地震発生から当時のNHKの初動を見ていきます。当時,総合テレビの放送開始は午前6時直前でしたが,東京と大阪だけは,午前5時50分から各ブロックの気象情報を放送していました(4ページ)。1993年にいわゆる「気象情報の自由化」が実施され,民間業者も独自の予報を出せるようになりました。気象庁は当時,朝の天気予報を午前5時50分に発表していましたが,自由化によってそれよりも早い時間に民間が予報を出せるようになったわけです。自由化と同時に民放の多くは早朝5時台に天気情報番組を編成。NHKは1995年4月から「おはよう5」という同様の番組を編成していますが,おそらく,東京・大阪の5時50分からの気象情報はこれの先行実施的な意味合いがあったのでしょう。

そんなわけで,地震発生当時はすでに東京でも大阪でも,放送の送出やニュース制作を始めており放送には好都合な時刻でした。
このため放送の立ち上がりは早く、大阪で午前5時49分から、東京でも5時50分(東京単)からそれぞれ総合テレビの放送を開始している(衛星第1・第2放送では、5時49分に速報スーパー)。
(4ページ)
地震発生から2分14秒後の5時49分、BK報道部4階のニューススタジオ。「おはようございます。今、時刻は5時49分をまわったところです。近畿地方で先ほど、強い地震を感じました」。阪神大震災の歴史的な放送は、宮田アナの沈着冷静なコメントでスタートした。いつもと違う始め方で冷静さを失っていたら、視聴者はパニックに陥ると判断したからである。この第一声が、その後(午後1時に一旦交替するまで)連続7時間にも及ぶ宮田アナの放送のトーンを決めた。
(2ページ)
ちなみに,BKとはNHK大阪放送局のことで,コールサインにちなんでいます。東京のNHKは「AK」という通称があります。当時のBKは前の代の放送会館です。

NHKの臨時ニュースといえば全国放送が基本というイメージがあります。これはシングルボイスと言われるもので,情報の発信源を1つに絞るという考え方です。NHKで言えば,臨時ニュースは東京のニュースセンターから出すのが基本というやつです。もちろんローカル差し替えなどもありますが,基本は東京送出です。

ところが,記録冊子に以下のような記述があります。
これだけ素早い対応が取れたのも、BKと管内局が取り組んできた緊急報道体制整備の成果によるところが大きかった。BKと管内局では、一定規模以上の地震発生や、津波情報・注意報が発令された際、その規模が全中の基準にあたり、一瞬のうちにQFで全中の放送に切り替えられる性質のものであっても、「あくまでも地元が第一報を出す」という姿勢で臨んできた。こういった取り組みと無関係ではないのだろう。地震発生直後の混乱の中でQF運用をオフにしてブロックでの速報を続けるという報道の判断により、5時51分から約2分間、全国放送のQFを断して近畿ブロックで放送を継続したものである。
(4ページ)
「全中」とはNHK内部の用語で「全国中継番組」の略です[注1]。「QF」はわからないんですが,おそらくニュースセンターにあるスイッチ1つでNHKのすべての放送波をニュースセンターからの映像に切り替えられる仕組みの話をしているのだと思います[注2]。地元優先主義はシングルボイスとは対極の考え方だけに少し意外でした。

 「震度6」は入っていた 

そろそろ本題に入りましょう。震災当時,やはり直後は各報道機関に「神戸・震度6」の情報は入りませんでした。その原因は以下の通りです。
神戸海洋気象台では、強い揺れのため、震度をオンラインで気象庁に送るアデスの端末機器が床に落下、専用回線が切断され、「震度6・神戸」の情報が気象庁に伝わらないという事態が起きた。オンラインシステムのダウンである。こうした事態が起きたとき、気象台の職員が、備え付けのVHF無線で、大阪管区気象台に震度を連絡することになっている。ところが、神戸海洋気象台の職員が、オンラインシステムの故障に気付くのが遅れ、大阪管区気象台に無線連絡が行われたのは、午前6時4分。実に地震発生の18分もあとであった。
(4ページ)
何やってんだ神戸海洋気象台! と言いたくもなりますが当時の混乱ではやむを得ないでしょう。しかし電話でもなくVHF無線というのがアナログ感満載ですね。有事の時ほどアナログが役に立つということでしょうか。

ところが,先ほども触れた3ページの初動の放送の表を見てみると以下のような記述があります。
5:50.40 第1報(神戸震度6彦根・豊岡震度5
(略)
6:00.30 東京スタジオ *震度6神戸
あれ? 「神戸震度6」の情報が5時50分にはすでに放送されている……?

そうなんです。実はNHKだけが地震発生5分以内というスピードで「神戸震度6」の情報が出ているんです。
NHKだけは、独自に電話取材で、神戸海洋気象台から直接震度6の情報を入手した。NHK神戸と神戸海洋気象台から直接震度6の情報を入手した。NHK神戸と神戸海洋気象台を結ぶホットラインが、幸いにも回線が切れずに生きていたのである。この結果、「震度6・神戸」の貴重な第一報が、近畿ブロックでは午前5時50分にいち早くオンエアーされた。気象台からホットラインで震度情報を取材しているのはNHKだけである。
(4ページ)
さすが,災害対策基本法で定められた報道機関唯一の「指定公共機関」だけあります。ホットラインで情報を入手していたんですね。


こちらの動画で,まさに神戸海洋気象台とホットラインを結んでいるNHK神戸放送局放送部の4年目・関則夫記者が映っています(記者に関する情報は記録冊子の1ページより)。

地震直後,すでにNHKには「神戸震度6」という情報が入っていたのです。


 消えた「震度6」 

しかし,その後,近畿ブロックでは一貫して震度6の情報が伝えられるものの,全国放送では午前6時9分に「神戸震度6」の情報を取り消します(32ページ)。
神戸海洋気象台大阪管区気象台とを結ぶアデス回線の切断で気象庁に神戸の震度情報が入らなかった結果、震度情報画面の神戸の部分が空白になり、「気象庁でも確認できない」として訂正されたのだ。(略)今回は、この「震度6・神戸」の再確認を、AKが大阪局と神戸局に求めてきた。そのため、初動段階で時間が取られ、関記者が再度の震度確認に追われる結果となった。
(32ページ)
情報の真偽を確かめる「ファクトチェック」をかなり厳しく行うNHKらしい事態です。こうして「神戸震度6」はいったん消え,そして冒頭に紹介した動画のように,6時15分になって改めて「震度6確認」の情報が出されることになります。
震度は気象台に電話取材するなり、アデス回線で自動的に入ってくるなりした数字をそのまま使用するのが原則で、双方をいちいち突き合わせる必要はない。したがって、神戸から「震度6」の連絡が大阪局からネットワークを経由して入れば、それが「確定報」であり、アデス情報と突き合わせて確認する必要はなかったのだ。
(32ページ)
このようにNHKも反省しています。確かに回線切断による情報の錯綜というのは普通に起こりうる話です。言われてみれば,新潟県中越地震の「川口町震度7」の情報も,地震計から情報が来ず,数日たってからの発表でした。

この再確認作業による具体的な影響は出ていて,当時のNHKのマニュアルでは「全国放送7波中断ニュース」を震度6で実施することになっていたようで,それが今回放送されなかったのは,NHKの大きな教訓となりました(33ページ)。

災害情報が自動化されて迅速に伝わることはいいんですが,やはりシステムにも限界があるということを頭に入れておかないといけないのは,何も報道関係だけではないなあと思いながら記録冊子を読みました。

こうした経緯をふまえているのかどうかはわかりませんが,現在,気象庁では地震計の情報が入らない市町村のうち,震度5弱以上の揺れがあったと思われる市町村については「震度5弱以上と推測」という情報を震度情報と併せて発表することにしています[注3]

この記録冊子の資料編には直後数週間の放送タイムテーブルや,HDC神戸ビル時代のNHK神戸のフロアマップなんかも載っています。興味ある方は一度ご覧になって,震災報道について考えてみるのもいいかもしれません。


 注釈 
  1. 世界大百科事典平凡社)の「放送番組」の項目より。(リンク:「コトバンク」の検索結果)
  2. 「QF」は緊急警報放送のことを表す符丁なのかなあとも思ったんですが,NHKネットクラブの番組情報で「ニュース<QFつき>」というのが検索で引っかかり,見てみると大雨特別警報関連の臨時ニュースの話でした(リンク)。このとき緊急警報放送は出ていませんので,おそらくいわゆる「八波全中」とか「七波全中」とかのことを指していると思います。
  3. 気象庁ウェブサイト「地震情報について」より。(リンク