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また夢ンなるといけねえ

しがない男子大学生。新聞サークルの記者をしている。堺、六甲、西中島南方が生活の拠点。

わかりやすく伝えるために,ニュース原稿をリライトしてみよう

調査報告・考察・主張
※今回の記事は,ツイッターで連続投稿した内容に大幅に加筆修正を加えたものです。
※2015年1月28日,小見出し追加。

 スキルがダメなら原稿に手を加えよう 

僕は放送部所属経験がありません。なので,先達から放送上の訓練を受けたことがありません。それは動画制作においても,アナウンスメントにおいても,番組進行においても。その証拠に,決められた原稿を読むときと,フリートークのときではてんで話し方が変わります。そういうタチなので,アクセントとか発音はかなり無茶苦茶ですし,滑舌も大して良いわけでもないので,ド素人として架空局の動画では原稿を読みます。

そんな素人が原稿読みを少しでも聞きやすいものにするにはどうすればいいのかを考えたことがあるんですが,僕の結論は「自分で原稿を書く」ことでした。既製の原稿はプロ向けに書かれたものです。素人がたやすく読めるはずがない。素人は素人らしく,自分が読みやすい原稿を作ればよいかもと。僕は架空局の動画でニュース番組を作ることがありますが,原稿は自分で書いています。もちろん,情報自体は各報道機関や公的機関のものを参照するわけですが,それでも必ずリライトします。

 リライトのコツはズバリ…「文を切る」 

放送局がニュースサイトにアップしている原稿,特にNHKの原稿はかなり不親切です。僕がデスクならNHKのニュース原稿はほぼ採用しません。リード文を無理やり1~2文にまとめようとして,接続助詞をやたらめったら使っていることがかなり多いです。プロは,腹筋を鍛え,発声を訓練し,また原稿を読むリズムを身体にしみこませていますから容易く読んでいるように見えますが,素人では上手くどころか普通に読むのさえ厳しいくらいのレベルです。そこで,原稿をリライトすることが求められます。これは有名な話ですが,池上彰さんがNHKで夕方のニュースのキャスターを務めることになったとき,アナウンサーでない自分は,書く立場から読む立場になって,原稿の悪文さに気づき,自分の読みやすい原稿にリライトすると言うことをやったそうです。

では具体的にどのようにリライトすればよいのでしょうか。実際の例を見ながら解説していきましょう。以下は2015年1月27日午後6時49分,「NHK NEWS WEB」で配信された原稿のリード文です。

官房長官は午後の記者会見で、イスラム過激派組織「イスラム国」とみられる組織が後藤健二さんの解放と引き換えにヨルダンで収監されている死刑囚の釈放を要求していることに関連して、日本の協力要請に対しヨルダン政府の理解は得られているという認識を示しました。

この文章の最大の問題点は,一文が長いということです。活字であればまだ許容範囲ですが,これを音声だけで伝えるのはなかなか難しいですし,聞く側も大変です。ですから,一文に含める情報は一度,できるだけ短くします。ここでは,いったん,できるだけ主語述語目的語)の三要素だけを含む文にそれぞれ切ってみます。例えば……

  • 官房長官午後の記者会見を行いました
  • イスラム過激派組織「イスラム国」とみられる組織は後藤健二さんの解放と引き換えにヨルダンで収監されている死刑囚の釈放を要求しています。 
  • 官房長官日本の協力要請に対しヨルダン政府の理解は得られているという認識を示しました
目的語はどうしても長くなってしまいますね。もっと短くしようと思えばできるのですが,あまりに不自然な文になりますので,とりあえずこれくらいにしておきましょう。ちなみに原文を色分けしてみるとこうなります。

官房長官午後の記者会見で、イスラム過激派組織「イスラム国」とみられる組織が後藤健二さんの解放と引き換えにヨルダンで収監されている死刑囚の釈放を要求していることに関連して、日本の協力要請に対しヨルダン政府の理解は得られているという認識を示しました。 

おわかりでしょうか。「午後の記者会見で」と「イスラム過激派~関連して」はいわゆる副詞節で,文構造においては述語を修飾するためだけのものです。文は修飾語句が多ければ多いほどわかりにくくなります。しかし情報としては必要なので,伝えないわけにはいきません。そこで文を切るという方法をとるわけです。

 切った文をつなげてみる 

さて,文を切ったはいいものの,どのように文をつなげるか。これは,いろいろなパターンがあります。まずは大原則の考え方をお示ししますと,主語と述語はできるだけ近づけるということです。 結局誰が何をしたのかということが真っ先に伝わらないと,ニュースの核心を伝えることはできません。その上で,原文を切り分けた3文を見てみると,第1文と第3文は主語が同じであることがわかります。そこで,この2文はくっつけてみましょう。

  • イスラム過激派組織「イスラム国」とみられる組織は,後藤健二さんの解放と引き換えにヨルダンで収監されている死刑囚の釈放を要求しています。 
  • 官房長官は,午後の記者会見で,日本の協力要請に対しヨルダン政府の理解は得られているという認識を示しました。
ここまでくればもう一歩。この2文をつなげる言葉を考えてみると,第2文の前に「これに関連して」や「これについて」を付け加えれば十分ですね。では完成した文を見てみましょう。 
イスラム過激派組織「イスラム国」とみられる組織は,後藤健二さんの解放と引き換えにヨルダンで収監されている死刑囚の釈放を要求しています。 これについて菅官房長官は,午後の記者会見で,日本の協力要請に対しヨルダン政府の理解は得られているという認識を示しました。
主語と述語が近づくだけでも,さっきの文章よりもすっきりした感じに見えます。しかし,これでも一文が長すぎる! という方もいらっしゃるでしょう。では,他にどんなやり方があるのでしょうか。いくつか例を挙げてみます。

<リード>
(まずは/次は,)イスラム過激派組織「イスラム国」とみられる組織が後藤健二さんを拘束した事件についてです。「イスラム国」は後藤さんの解放と引き換えに,ヨルダンで収監されている死刑囚の解放を要求しています。菅官房長官は,日本の協力要請に対し,ヨルダン政府の理解は得られているという認識を示しました。
<本文>
これは,午後の記者会見の中で菅官房長官が述べたものです。 

この例では,「イスラム国」への修飾語句が長いことから,ニュースの前提部分を2文に分けました。また,「午後の記者会見で」を本文部分に差し替えたものです。このニュースでは,「記者会見で述べた」ということ自体はあまり重要ではありません。ですから,リード文にわざわざ入れる必要はないという判断をしました。

 スキルと相談して自分流のリライトを 

さて,お気づきの方がいるかもしれませんが,この文を切るというやり方にも短所があります。それは一文一文は短くなりますが,全文は長くなってしまうということです。たとえば,道案内で「駅の東出口を出て2つ目の信号を左折してつきあたりを右に曲がって3つ目の信号です」と伝えることも出来ますが,より丁寧にわかりやすく伝えようとすると「まず駅の東出口を出てまっすぐ進んでください。2つ目の信号のところで左に曲がってください。しばらく進むとつきあたりが出てきます。そこで右に曲がってください。そこから3つ目の信号まで進めば着きます」という風に文章を切りますよね。しかしこの場合,どうしても文が長くなってしまいます。

わかりやすさと文の長さの間でどう折り合いをつけるかは,それこそ読み手のスキルによりけりです。アナウンサーのようなプロは,長い文でもわかりやすく伝えるための呼吸法と発声法,リズムを体得しているので大丈夫ですが,素人はそのようにはいきません。だからこそ,リライトの作業が必要になってきます。

先の文章であれば,主語の転換点で呼吸を置くことに慣れてきたら,「これについて」で繋げるのではなく,接続助詞「が」で繋げて,一文にしてしまうという選択肢もあります。主語と述語の近さは変わりませんが,言葉のリズムに違いがあるので一度読み比べてみながら実感してみてはいかがでしょう。

この他にも,細かなテクニックとして,読みにくい言葉は他の言葉に言い換える(たとえば「老若男女」⇒「子どもからお年寄りまで」)ものなどがありますが,これらは実際にリライトしていくなかで経験的に獲得できるものです。まずは,リライトしてみる,ということを体験してみてはいかがでしょうか。